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プロジェクト3

『ネットワークリサーチ・スタイル』


キー本研究のキーワード
【インターネット社会調査】【ライフスタイル分析】【データマイニング】【サブカルチャー】【テレビ視聴質】【形態素解析】【携帯電話(ブラウザフォン)】【世論調査】

インタビュービデオはこちらからご覧いただけます。

■ 研究者

熊坂賢次 慶應義塾大学環境情報学部教授
小野田哲弥 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程
伊藤貴一 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程
荒木 秀 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程
川崎照夫 慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員
霜鳥保友 慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員
小杉 智 有限会社ネクストスケープ代表取締役社長



■ 研究内容の概要:

 インターネット社会調査は社会的に認知され、定着しつつある。しかしそのほとんどは、従来の紙メディアを利用した質問紙調査を、インターネットという新しいメディアに単に移行したものに過ぎない。本研究プロジェクトは、ネットワーク独自の特性を活かした調査方法と解析技法を開発することで、ネットワークリサーチという新たな社会調査のスタイルの確立を目指す。



■ 研究内容の詳細:

 ネットワークリサーチは、ネットワーク独自の特性を活かす社会調査法でなくてはならない。ではその特性とはいかなるものか。それは、以下の3要素を体現するものでなければならない、と考える。

1)調査主体と被調査主体のインタラクティブな融合関係
2)被調査主体のユニークな認識フレームの許容
3)社会調査の多様性への価値委託

 既存の社会調査は、その前提に、調査主体と被調査主体との役割分化がある。そこには権力関係が存在し、調査は一方通行である。しかし、ネットワークの環境では、このような両者の関係は、常に流動的で融合的でなければならない。インタラクティブである点、これが第1点目のポイントである。

 第2点目は、調査を強要してはならない、という点だ。従来型アンケートでは、被調査主体は調査主体の意図に適合した反応を示すことが暗黙的に求められた。しかし、ネットワークを活用した社会調査では、可能なかぎり、調査関与への「自由」が確保されるべきである。統一的な認識フレークへの誘導には、常に禁欲的でなければならない。
 そして第3は、既存の社会調査を唯一のものとは考えず、また新たな調査方法をも絶対的なものと認めずに、そのどれもが一つの特定化された社会調査と位置づけ、それらを含むよりメタなレベルでの社会調査とその技法の開発をするべきだという点である。具体的には、毎日連続した調査、10万を超える変数から成る調査などが挙げられよう。
 以上の特性を備えた調査として、本研究プロジェクトは、『iMap』と『リサーチQ』という2つ調査実験を行っている。それらの概要と成果は以下の通りである。

1)iMap.gr.jp
 iMapは、個人のライフスタイルにかんして膨大でかつ詳細なデータを収集し、解読することを目指した社会調査である。これは、一方では、個人の生活史を分析するための調査であり、同時にその集合から社会文化現象の歴史的かつ構造的な分析を試みた社会調査である。リアルタイムで結果をフィードバックすることで自己認知を促し、また被調査主体間で相互認知が可能な仕組みを生成した。それゆえ、被験者はユーザとして、自由意志で社会調査に協力している。
 収集データの分析面では、個別事象(アイテム)の解析手順を確立し、モデル化した。それは次の4手順である。
  • データクリーニング(ネット調査に付随する、データの不安定さの補正)
  • レイヤー分割(個別事象は認知度によって分析手法が異なるため階層化する)
  • クラスタリング(各階層でデータマイニングを行い、その結果から定量的に結合)
  • メディアマップ(全階層を通して座標軸にクラスターをプロットすることで視覚化)
    このモデルは、「マンガ」「ゲーム」の2ジャンルにおいて成果を発揮し、その汎用性の高さが立証された。

2)リサーチQ
 リサーチQは、テレビ朝日との共同で研究開発を行っている実験サイトである。テレビの番組視聴率は、リアルタイム性に関してもっとも優れた調査であるが、視聴率それ以外のデータを収集することが困難であるため、番組の質的価値が蔑ろにされる問題点を伴っている。リサーチQは、リアルタイム性を重視するばかりでなく、従来紙メディアが扱ってきた選択肢やフリーアンサーといった要素を取り入れることで、視聴率と補完的で対等な価値をもつ「視聴質」の概念を編み出した。「期待度/満足度」による番組プロットや、フリーアンサーの「形態素解析」による番組の放送回によるプロセス分析などをこれまでに実現している。これらの成果によって、視聴率では測れなかった番組の特徴が鮮明に捉えられるようになってきた。



■ プロジェクト3(次世代サイバーアプリケーションの研究)における本研究の位置付け:

 ネットワーク社会調査の最先端を突き進む実験を多く行うこと。および、その経験を踏まえた上での新たな社会調査のスタイルの確立。



■ 研究の発展方向

 本研究プロジェクトは、『iMap』『リサーチQ』の見通しが立ったことを受け、第3の調査実験の構想を練る段階に到達した。現在、Webブラウザ機能付携帯電話が社会的に普及している。第3の調査では、このブラウザフォンを利用した調査実験こそが、PCブラウザを活用した上記2つとの差別化という点でも、また社会的な要請という点でも、挑戦する価値のあるものだと考える。
 この調査サイトの名称は『J-reset』である。政治・経済に限らず、文化・価値的側面から日本を変えたいとの立場から、この名称を採用した。携帯電話がもつ即時的な特性を活かし、時事問題といったタイムリーな質問を投げかけるとともに、ユーザ認証方法のユニーク性を利用して多様な価値観を継続的に調査する。これによって日本一早い世論調査システムを実現するとともに、従来の定点観測を超えたライフスタイル調査を実現したい。
 また既存の『iMap』『リサーチQ』の2つについても、前者では「女性ファッション」「音楽シーン」など、分析ジャンルの幅を広げ、後者については、視聴者のクラスタリングと、形態素解析用の個別辞書の作成を重点的に行っていく予定である。



■ 関連URL:

研究室
http://web.sfc.keio.ac.jp/~ken/

iMap.gr.jp
http://www.imap.gr.jp/

リサーチQ
http://www.rq-tv.com/