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プロジェクト3

『図解を利用した履修計画立案システムの構築』


キー本研究のキーワード
【履修計画】【カリキュラム構築】
【図解】【カード操作ツール】

インタビュービデオはこちらからご覧いただけます。

■ 研究者

大岩 元

環境情報学部教授兼政策・メディア研究科委員
杉浦 学 環境情報学部 学生
小林孝弘 政策・メディア研究科 修士課程学生
秋山 優 政策・メディア研究科 博士課程学生



■ 研究内容の概要:

 本研究は、SFCの学生が卒業してから後悔しない大学生活を送れるよう、履修計画の支援を行うことを目的としている。そのアプローチとして、カード操作による図解を行うことにより、履修計画を視覚的に表現し試行錯誤するということを提案する。こうして履修計画を2次元上の空間的配置の中で洗練していくことにより、学生はより直感的に自分のやりたいこと、やるべきことを明らかにすることができるようになる。本研究では、この手法をサポートするシステムを開発する。



■ 研究内容の詳細:

 SFCでは必修と呼べる科目がほとんどなく、学生は自己の責任に置いて、履修計画を立案することが求められる。このことは、学生が自分のやりたいことを自由に追求できる反面、きちんとした計画に基づいて履修を行っていかねば、結局何も得ることもなく卒業することになってしまうという危険がある。

 現状において、この履修計画に対する取り組みが甘く、SFCを卒業した後で後悔している学生は多い。そこで、235人のSFCの学生を対象に履修計画の実態に関する質問紙調査を行った結果、次のような事実が得られた。 大部分の学生の目的意識は希薄であり、大学という環境を自分の目的達成のために利用しようという姿勢に欠けている。そして、単位取得、興味本位といったその場しのぎの短期的な視野に基づく安易な履修を行っているのである。

 実は、この状況を改善するために、授業内容を15のクラスターに分け、履修計画の手助けとなる試みが大学当局によって行なわれているが、その考え方が学生には理解されていない。

 この状況を改善するために、われわれはまず、学生が「良い」方法のもとに「良い」履修計画を立案できるようにすることを考えた。学生生活の間に達成したい目標を明確に定め、それを分析することにより履修すべき授業を特定することが最も望ましい履修計画であると考え、その手順を事細かにナビゲートするシステムを学生に提供することを試みた。
 この考えに基づく履修計画ワークシート「たのしい履修計画」を作成し、30人のSFCの学生に対して評価実験を行ったが、その評判はいまひとつであった。自分なりのやり方ができなくて窮屈であるということ、そもそもこの履修計画の立て方は「良い」ものなのかという学生の猜疑心がその主な理由である。

 履修計画の「良さ」の基準は学生によって異なるものである。履修計画の方法に統一的な基準を設けることは非常に難しい。ましてやその中で「良い」履修計画を定義しそれを押し付けるわけにはいかない。

 このようなことから、我々は履修計画支援の立場を見直し、次のようなアプローチをとることを考えるようになった。学生が履修計画についてよく「考える」ことのできる手段としてのシステムを提供するのだ。履修計画に統一的な「良さ」が存在しないとなれば、履修計画の方法、そのアウトプットの質について議論することはあまり意味をなさない。それよりも、学生が納得のいくまで履修計画について考えることを促すような手段を提供することが、より本質的に履修計画を支援することに繋がると考えたのである。
 そのようなシステムに、我々は以下のような要件を定義した。
  • 履修計画を図解化して考える
  • 履修計画を様々な角度から検証するためのビューを提供する
  • 履修計画を他の学生を共有する
 1は、我々のアプローチにおいて最も重要な機能である。履修計画について「考える」アプローチとして、我々はカード操作による図解を提案する。履修計画に関わる要素(授業、コメントなど)をそれぞれカードとして画面上に直感的に配置・操作していくことにより、履修計画を考えるのだ。こうして履修計画を試行錯誤の中で洗練していくことにより、学生はより直感的に自分のやりたいこと、やるべきことを明らかにすることができるようになる。これは、川喜田二郎のKJ法の方法論に基づいている。
 2により、学生は履修計画を時間的・単位的制約、学問的な方向性といった観点から、作成した履修計画を検証することができる。より具体的には、作成した履修計画をもとに、時間割表、達成すべき成績の一覧表、自分の興味を持つクラスターの科目との対応表を生成するものである。これは、より効果的で、実現可能性の高い履修計画の立案を支援するものである。
 3は、履修計画を他の学生とのコラボレーションの中で立案することを可能にする。学生は、履修計画の立案にあたって他の学生の計画を参考にしたり、自分の履修計画を参考にした学生からのフィードバックを受けたりすることができるようになる。これにより、学生は協調しながら互いの履修計画を洗練していくことが可能になる。

 履修計画を立案するという能力は、大学生活を効果的なものにするためだけでなく、これからの社会生活を営んでいく上で、非常に重要となる。納得のいく人生を送るためには、その入念なデザインは必要不可欠であり、その考え方は大学における履修計画をデザインすることと本質的に等価である。すなわち、履修計画を立案することによって得られたノウハウは、そのまま以降の人生で生きることになる。したがって、そのような活動を支援するシステムの存在は、大学環境のみならず、これからの日本の社会にとっても有意義なものであると我々は考える。



■ プロジェクト3(次世代サイバーアプリケーションの研究)における本研究の位置付け:

 SFCという新しい学習形態を持つキャンパスにおける、学生の自主的なカリキュラム構築を補助する履修計画支援システムを、Webアプリケーションとして構築する研究である。
 
カリキュラム構築という教育的観点と、学生支援というコンセプトという新しい視点をもつ研究という点で、次世代のサーバーアプリケーションに関する研究であると位置づけられる。



■ 研究の発展方向

 研究によって構築されるシステムのデータを蓄積し、大学側に提供することで、現在は行われていない学生個人の履修行動を明らかにすることができる。これによって大学側からのカリキュラムの見直しに有用と考えられるデータを蓄積し、カリキュラムの改定に役立てることができると考えられる。
 同時に、今後広く活用が期待される能力認定制度の策定にも、有用なデータが蓄積できると考えられる。



■ 関連URL:

慶應義塾大学 大岩研究室(CreW Project)
http://www.crew.sfc.keio.ac.jp

enTrance Project
http://entrance.crew.sfc.keio.ac.jp